研究者の"主体性"をどう守るか
1.はじめに ― いま、研究者に問われている新しい問い
近年、生成AIの急速な発展により、論文執筆や英文校正の方法は大きく変化しています。ChatGPT、Claude、Geminiといった大規模言語モデル(LLM)は、英文の推敲・文法修正・表現改善・要約作成など、研究者の知的作業のあらゆる場面に入り込み始めました。
ほんの数年前まで「AIで論文を書く」と言えば未来の話でした。しかし今や、英語を母語としない研究者にとって、AIはなくてはならない執筆パートナーになりつつあります。
しかし、その急速な普及と並行して、学術出版の現場では新たな問いが浮上しています。
「AIをどこまで使ってよいのか?」 「AIが書いた文章に対して、誰が責任を負うのか?」 「AIに依存することで、研究者自身の"声"は失われないか?」
これらは、技術の話ではなく、学術倫理と研究者のアイデンティティに関わる根本的な問いです。本記事では、世界の医学雑誌編集者協会(WAME)が示した指針を出発点に、AI時代の論文執筆に求められる姿勢と、「AI依存度」を意識した校閲の意義について考えていきます。
2.WAMEガイドラインが示す、AI利用の3つの原則
Mondal et al. (2024) は、“World Association of Medical Editors(WAME/世界医学雑誌編集者協会)”のガイドラインを解説した論文の中で、AIツールを用いた原稿執筆について重要な指摘を行っています。
Mondal, H., Mondal, S., & Juhi, A. (2024). Using artificial intelligence-based chatbots for manuscript preparation: Summarising World Association of Medical Editors guideline. Indian Journal of Rheumatology, 20(1), 89–91.
この論文と、その元となるWAMEの方針は、世界中の医学・生命科学系ジャーナルに大きな影響を与えています。要点を整理すると、AI利用には以下の3つの原則が貫かれています。
原則①:AIは「著者」になれない
AIは膨大なテキストを生成できますが、研究内容の正確性、データ解釈の妥当性、結論への責任を負うことはできません。著者性(Authorship)の本質は「責任を取れること」にあるため、ChatGPTなどのAIは著者リストに含めてはならない、これがWAMEの明確な立場です。
原則②:最終責任は常に著者にある
AIが生成した文章であっても、それを論文に組み込んだ瞬間、その内容に対する全責任は著者自身にあります。生成された文章には、
- 事実誤認や捏造(いわゆる "hallucination")
- 存在しない参考文献の引用
- 論理の飛躍や、専門用語の誤用
などが含まれる可能性があり、研究者による綿密な確認は不可欠です。
原則③:AI利用は「透明性」をもって開示する
AIを使用した場合は、どのAIを、どの段階で、どのように使ったかを、原稿の謝辞や方法のセクションで明示することが求められます。「使ったが、隠す」ことは学術不正の領域に踏み込みかねません。
3.いま問われているのは「使うか否か」ではなく「どこまで依存するか」
WAMEガイドラインを踏まえた現在の議論の中心は、「AIを使うかどうか」ではなく、「AIにどの程度依存するか」へとシフトしています。これは、AI利用がもはや前提となった時代の、新しい焦点です。
過度なAI依存がもたらすリスク
AIは確かに執筆の効率化に大きく貢献します。しかし、依存度が高すぎると、論文には次のような問題が忍び込みます。
研究者の「声」が消える
研究者一人ひとりには、長年の研究を通じて培われた独自の論理展開、表現の癖、専門用語の使い分けがあります。これこそが論文の個性であり、専門性の証でもあります。 しかしAIに任せきりにすると、文章はどんどん"平均化"され、「誰が書いても同じような文章」になってしまいます。
AIライティング特有の「定型表現」が増殖する
LLMは学習データから統計的に「ありそうな表現」を生成します。その結果、
- "It is important to note that..."
- "In recent years, there has been growing interest in..."
- "Furthermore, it should be emphasized that..."
といった、AIに特徴的な定型フレーズが原稿全体にちりばめられ、査読者に「これはAI生成では?」という印象を与えてしまいます。
ジャーナル側のAI検知に引っかかる
近年、多くの国際ジャーナルがAIライティング検知ツール(GPTZero、Originality.ai、Turnitin AI検知など)を導入し始めています。AI生成度が一定の閾値を超えると、投稿拒否や審査差し戻しの対象となるケースも増えています。
自分の論理を「考え抜く」機会の喪失
論文を書くという行為は、本来、研究者自身が思考を深める知的プロセスでもあります。AIに任せきりにすれば、執筆を通じた発見や、論理の鍛え直しの機会そのものが失われていく、これは長期的に見れば、研究者個人にとっても学術界にとっても大きな損失と言えるでしょう。
4.AIライティング検知度を「許容範囲」に抑えるという新しい視点
実は、いま研究者の間で静かに広がっている悩みがあります。それは、
「AIを補助的に使っただけなのに、検知ツールでAI生成率が高く判定されてしまう」
という問題です。
これは、AIが学習したテキストパターンと、現代の学術英語のフォーマルな表現がもともと近いため、真面目に書いた文章ほど"AIっぽく"判定されやすいという、皮肉な現象でもあります。
そこで重要になるのが、
- AIライティング特有の定型表現を意識的に減らす
- 著者本来の表現や論理を意識的に残す
- 結果として、検知ツールでも国際ジャーナルの許容範囲に収める
という、新しい校閲の視点です。
5.解決策|エヌ・エイ・アイの「AI依存度低減校閲」
こうした課題に対する具体的な解決策の一つが、エヌ・エイ・アイ株式会社が提供する「AI依存度低減校閲」です。
このサービスは、通常の英文校閲とは一線を画す、新時代に対応した校閲アプローチを採用しています。
「AI依存度低減校閲」の3つの柱
① iThenticateによるAIライティング検出
業界標準の盗用検出ツールとして知られるiThenticateを活用し、
- AI生成文に特徴的な不自然な定型表現
- 過度な一般化表現
- パターン化されたフレーズの過剰使用
などを精緻に点検します。
② 著者の主体性を取り戻す書き換え提案
検出された箇所については、著者自身の意図・専門知識・研究の文脈がより明確に反映される表現へと、専門校閲者が一つひとつ改善提案を行います。
ここで何より重要なのは、「単に言い回しを変える」のではなく、「著者本来の声」を引き出すという姿勢です。AIによって平均化されてしまった表現を、著者ご自身の研究者としての"らしさ"へと取り戻していく、これが本サービスの核心です。
そのため当然ながら、校閲者と著者との間で綿密な確認作業が行われます。一度のやり取りで完結することはむしろ稀で、場合によっては3回、4回と往復を重ねながら、著者の意図に最も近い表現へと丁寧に磨き上げていきます。
③ 長年の知見に裏打ちされたサービス
この「AI依存度低減校閲」は、決して一朝一夕に生まれたサービスではありません。NAIが本サービスの開始に先立ち、
- 10年以上にわたり提供してきた「フルチェンジリライト」 (現在は「類似性削減校閲Ⓡ」「AI依存度低減校閲」へと発展的に引き継がれています)
- 5年以上にわたって提供してきた「類似性削減校閲Ⓡ」
という、二つの先行サービスで培ってきたノウハウの延長線上に位置づけられるサービスです。
つまり「AI依存度低減校閲Ⓡ」は、長年にわたって積み上げてきた校閲技術と、著者との対話の知見という、確かな後ろ盾を持っています。生成AIという新しい技術への対応でありながら、そこには十数年に及ぶ"人の手による校閲"の蓄積が息づいているのです。
もちろん、AI依存度低減校閲は、最終的に、AIライティング検知度を国際ジャーナルの許容範囲まで低減することを目的としています。これにより、
- 査読プロセスでの不要な疑念を回避
- ジャーナル側のAI規定への明確な準拠
- 著者の研究成果が、正当に評価される土台を確保
が実現します。
「AIを否定しない」校閲思想
このサービスの最大の特徴は、AIの利用を否定しないことです。 AIは執筆プロセスにおいて極めて有用なツールであり、賢く使いこなすことは、これからの研究者に必要なスキルです。 だからこそNAIは、
「AIを使うな」ではなく、「AIに使われるな」
という思想で、研究者の主体性を守りながら、論文の品質を底上げするサービスを提供しています。
6.これからの研究者に求められる「両立の姿勢」
WAMEガイドラインも繰り返し強調しているように、AIの利用においては「透明性」と「著者責任」の確保が最重要です。これに加えて、現場の研究者には次の2つの姿勢が求められると考えられます。
AIを活用すること
- 初稿のたたき台作成
- 文法・スペルチェック
- 表現のバリエーション提案
- 要約や言い換え
AIの長所を最大限活かす―これは効率化の観点から正当な選択です。
AIに依存しすぎないこと
- 自分の論理は自分で組み立てる
- 専門用語の選択は自分の責任で行う
- AI生成文をそのまま使わず、必ず咀嚼して書き直す
- 最終確認は専門家の目を通す
この「活用」と「依存回避」の両立こそが、これからの研究者に必要な新しいリテラシーです。
7.おわりに ― AIと共に歩む、これからの学術コミュニケーション
生成AIは、今後ますます学術論文執筆の現場に浸透していくでしょう。しかしAIは、
- 研究の着想を生み出すことはできません
- データの分析と解釈に責任を持つことはできません
- 結論の妥当性を保証することはできません
- 著者として責任を負うことはできません
これらはすべて、研究者自身に委ねられた領域です。
「AIを活用すること」と「AIに依存しすぎないこと」― この両立こそが、AI時代の研究者にとって最大の課題であり、価値となります。
エヌ・エイ・アイの「AI依存度低減校閲」は、そうした研究者の歩みに寄り添うサービスとして、論文の質と独自性を守るお手伝いをしています。 ご自身の研究の"声"を、世界に正しく届けるために。ぜひお気軽にご相談ください。
参考文献
Mondal, H., Mondal, S., & Juhi, A. (2024). Using artificial intelligence-based chatbots for manuscript preparation: Summarising World Association of Medical Editors guideline. Indian Journal of Rheumatology, 20(1), 89–91. https://doi.org/10.1177/097336982412789
World Association of Medical Editors (WAME). Chatbots, Generative AI, and Scholarly Manuscripts. https://wame.org/
