AIに任せるべきこと、人に任せるべきこと|論文執筆を効率化する使い分け
近年、生成AIの進化によって、論文執筆の進め方は大きく変わりつつあります。
今では多くの研究者が、英文を作成したり、文献を探したりする際に、ChatGPTやClaude、Geminiなどの生成AIを活用しています。数年前までは考えられなかったスピードで英文ドラフトが完成し、膨大な先行研究の要点を短時間で把握できるようになりました。
一方で、
「どうやってAIを使えば、効率的に(楽に)論文を書けるのだろうか」
「どこまでAIに任せて大丈夫なのだろうか」
と迷われる方も少なくありません。特に投稿先ジャーナルのAIポリシーが年々更新されるなか、「使い方を間違えたらリジェクトされるのでは」という不安を抱える研究者も増えています。
私たちも日々、多くの研究者の投稿論文や学会資料などの学術文章をサポートしていますが、AIを活用していること自体が問題になるケースはほとんどありません。
むしろ重要なのは、「AIを使うかどうか」ではなく、「AIをどのように活用するか」 です。
AIにはAIの得意なことがあります。一方で、研究者自身や専門家による人力の方が勝っている部分もあります。それぞれの得意分野を理解して使い分けることで、論文執筆はより効率的で、より質の高いものにすることができます。
AIが得意なこと① 文献調査や情報整理
研究テーマについて調べ始めるとき、あるいは新しい分野の概要を把握したいとき、生成AIは非常に有効です。
例えば、
- ChatGPT
- Claude
- Gemini
といった汎用型の生成AIでは、研究テーマに関する概要を整理したり、関連研究の情報をまとめたり、論文の構成案を考えたりするなど、執筆前の 「考えを整理する作業」 を効率的に進めることができます。特に、分野をまたぐ研究や、専門外のキーワードに触れる場面では、AIとの対話を通じて全体像を素早くつかむことができます。
また、
- Consensus
- Elicit
- Perplexity
のような研究支援に特化したAIツールでは、関連論文を検索したり、複数の論文の内容を比較したり、根拠のある回答を得たりすることも可能です。従来のデータベース検索と組み合わせて使うことで、リサーチの効率は格段に向上します。
もちろん、AIが示した内容をそのまま引用することはおすすめできません。AIは時に存在しない論文を「もっともらしく」提示してしまうことがあるからです。しかし、「まず全体像を整理したい」「関連研究を効率よく探したい」 という初期段階では、大きな助けになります。最終的にはPubMedやGoogle Scholarなどで原著を確認するというプロセスを組み合わせるのが安心です。
AIが得意なこと② 英文のたたき台を作る
多くの日本人研究者が、英文を書くことに苦労しています。「日本語では自然に書けるのに、英語だと言いたいことの半分も表現できない」という悩みは非常に一般的です。
そのような場合、ChatGPTやClaude、DeepL翻訳などを利用して英文のドラフトを作成すると、執筆時間を大きく短縮できます。以前であれば一文を書くのにも時間がかかっていた部分が、AIを使うことで大幅な時間短縮になることも珍しくありません。
もちろん、そのまま投稿することを前提とするのではなく、「たたき台」として利用すること が重要です。ゼロから英文を書くよりも、AIが作成したドラフトを修正していく方が効率的なケースは少なくありません。特に、Methods セクションのように定型的な表現が多い箇所では、AIの活用効果が高くなります。
一方で、人による確認が欠かせないこと
AIは便利ですが、AIをもとに作成された文章は 「自然な文章」 かもしれませんが、「正しい文章」 であるとは必ずしも限りません。
研究内容を理解し、その研究が本当に伝えたいことを表現できているかどうかは、AIだけでは判断できない部分があります。
例えば、
- AIが研究結果を 実際よりも強く表現 してしまう
- 考察が飛躍 してしまう
- 存在しない参考文献や誤った情報 を含めてしまう(ハルシネーション)
- 著者が意図した ニュアンスとは異なる英文 になる
といったケースは、現在でも少なくありません。特に最新のモデルであっても、専門性の高い医学・生命科学分野では、微妙な用語の使い分けや因果関係の表現で誤りが生じることがあります。
文法的には正しい英文でも、論文内容や学術文章としては適切ではないことがあるのです。
だからこそ、AIが作成した文章は、「完成版」ではなく「確認すべき原稿」 と考えることが大切です。この意識を持つだけで、AI活用のリスクは大きく減らすことができます。
「伝わる論文」になるかは人の視点が重要
論文では、「正しい英語」であること以上に、「査読者や読者へ正しく伝わること」 が重要です。
例えば、
「本研究では有効性が 示唆された」
という結果を
「本研究で有効性が 証明された」
とAIが表現してしまえば、科学的に正しい表現とは言えなくなってしまいます。suggested と demonstrated、あるいは may と can の一語の違いが、研究の主張の強さを大きく変えてしまうのです。
また、日本語では自然な表現でも、英語では研究者が伝えたいニュアンスが十分に反映されていないこともあります。こうした微妙な違いは、文法チェックだけでは判断できません。
研究内容や投稿先ジャーナルのスタイルを踏まえ、「この表現で正確に伝わるだろうか」 という視点は、専門家による確認だからこそ得られるものです。査読者がどの点に注目するか、どの表現がリジェクト理由になりやすいかを知っている校閲者の目は、AIには置き換えられない価値があります。
AIと専門家を組み合わせることが、これからの論文執筆
生成AIは、論文執筆や文章作成を効率化する非常に優れたツールです。実際に、多くの研究者が日常的に活用しており、今後もその流れはさらに広がっていくでしょう。
一方で、投稿前には次のような点を確認することが、質の高い論文につながります。
- 研究内容が 正しく伝わっているか
- 英文の ニュアンスに問題はないか
- 日本語の意図が 英語へ正しく反映されているか
- 論理展開に無理はないか
- 使用用語は正確か
- 投稿規定・AIポリシー に反していないか
NAIでも、「AIを使いながら原稿を作成したので、投稿前に校閲者に確認してほしい」というご相談が増えています。英文校閲、照合翻訳などを通じて、AIでは判断が難しい部分をNAIの校閲者がサポートすることで、質の高い英語論文の完成をお手伝いしています。
生成AIは、研究者に代わる存在ではなく、研究者を支える強力なパートナー です。電卓や統計ソフトが研究に欠かせないツールとなったように、生成AIも論文執筆を支援するツールの一つになっています。
大切なのは、「AIを使うかどうか」ではなく、「AIの強みを活かしながら、人が確認すべきところはしっかり確認すること」 です。
AIと専門家、それぞれの強みを組み合わせることが、これからの論文執筆ではますます重要になっていくのではないでしょうか。ツールに使われるのではなく、ツールを使いこなす——その姿勢こそが、これからの研究者にとっての新しいリテラシーと言えるかもしれません。
▼エヌ・エイ・アイ株式会社の科学論文サポートサービス
https://www.nai.co.jp/
