はじめに:リジェクトは「終わり」ではなく「仕切り直し」の始まり
論文を投稿していれば、リジェクトは避けて通れません。実際、トップジャーナルでは投稿論文の7〜8割、領域によっては9割以上が査読に回る前のデスクリジェクト段階で落とされるとも言われており、リジェクト自体は研究者にとって日常的な出来事です。
重要なのは、リジェクトの理由が必ずしも「研究内容そのものへの否定」ではないということです。エディターからのコメントを読み込むと、
- スコープ不一致(ジャーナルの読者層と合わない)
- ノベルティの主張が弱い
- 掲載枠の都合(その号のテーマと外れる)
- 統計手法に対する追加要求が大きすぎて再査読に時間がかかる
といった、論文のクオリティとは別軸の判断であることも少なくありません。だからこそ、多くの研究者がリジェクト後すぐに次のジャーナルへの 再投稿(resubmission to another journal) を検討します。
ここで意外な落とし穴になるのが、投稿先を変えることに伴うフォーマット修正 です。本文の中身は一切いじらなくていい場合であっても、新しいジャーナルの投稿規程(Author Guidelines / Instructions for Authors)に従って、字数、書式、引用スタイル、図表、付属書類……と、見直すべき項目が一気に増えます。「本文は完成しているのだから、すぐ出せるはず」と思っていたのに、規程を読み込んでみると半日仕事だった、というのはよくある話です。
今回は、ジャーナル変更時に 特に見落としやすい5つのフォーマット修正ポイント を、実務の視点から整理してご紹介します。
① タイトルページの情報 ― 「誰が書いたか」をどう見せるかはジャーナル次第
タイトルページは、ジャーナルごとの「お作法」が最も色濃く出る部分のひとつです。元のジャーナル向けに整えたタイトルページを、そのままコピー&ペーストで使い回せることは、まずありません。
代表的なチェック項目を挙げると、
- 著者名の表記順と肩書きの書き方(First name 表記か、イニシャル+姓か)
- 所属機関(Affiliation)の記載フォーマット(上付き数字/記号での紐づけ、住所・郵便番号まで書くかどうか)
- Corresponding Authorの指定方法(メールアドレス、電話番号、ORCIDをどこに書くか)
- ORCID iDの掲載要否(最近は必須化が進行中)
- Running title / Short title の文字数制限
- キーワードの個数と表記ルール(MeSH準拠を求めるか、自由語でよいか)
特に注意したいのが、ダブルブラインド査読(double-blind peer review) を採用しているジャーナルへの投稿です。著者情報をタイトルページにすら載せず、別ファイル(Title Page を本文と分離)として提出するだけでなく、本文中の自己引用("As we previously reported in Tanaka et al., 2022...")を中立的な表現("A previous study reported...")に書き換えるよう求められることもあります。Acknowledgments の所属情報や謝辞、Funding 情報まで匿名化対象になるケースもあるので、規程の「For double-blind peer review」のセクションは一字一句読み込む必要があります。
② 引用文献のスタイル ― 再投稿で最も時間を食う「地味な大物」
経験上、投稿先を変える際に 最も工数がかかるのが Reference の作り直し です。
ジャーナルごとに採用しているスタイルは多岐にわたります。代表的なものだけでも、
- Vancouver形式(医学系で広く採用、本文中は番号引用)
- APA形式(心理・社会科学系、著者-年)
- Harvard形式(人文・経営系、著者-年だがAPAとは細部が異なる)
- AMA形式(米国医学系)
- Chicago / Turabian(人文系)
- IEEE形式(工学系、角括弧の番号)
「Vancouverなら大丈夫」と思って提出しても、ジャーナル独自のローカルルールに引っかかることがよくあります。たとえば──
- 著者名は 何人まで列挙して、何人目から "et al." にするか(3人まで/6人まで/全員列挙、と分かれる)
- 雑誌名は 省略形(abbreviated journal title)か、フルネームか
- DOIを必須にするか、URLでよいか、アクセス日を書くか
- ページ番号は 123-129のようにフル表記か、123-9のように省略形か
- 文末のピリオド、コロン、セミコロンの位置
EndNote、Zotero、Mendeley、Paperpile などの文献管理ソフトを使っていれば、スタイルを切り替えるだけで一括変換できる──と思いがちですが、実際には 公式スタイルファイルがジャーナルの最新規程に追いついていない ことも珍しくありません。最終的には、PDFや投稿規程と一文献ずつ突き合わせる目視チェックがどうしても必要になります。
ここを甘く見て提出すると、技術チェック(technical check)の段階で差し戻され、再投稿の時計が振り出しに戻ります。
③ 図表の形式・配置 ― 「画像ファイル」としての要件を満たしているか
図表まわりも、ジャーナル変更時に修正漏れが頻発するポイントです。
主な確認項目は以下のとおりです。
- 本文中に図表を埋め込む形式か、別ファイル提出か(最近は別ファイル提出+本文中に "Insert Figure 1 here" のような指示を入れる形式が多い)
- ファイル形式:TIFF / EPS / PDF / PNG / JPEG のうちどれを許容するか
- 解像度要件:line art は 1000–1200 dpi、halftone(写真)は 300 dpi、combination は 500–600 dpi、というように 図の種類別に要求が違う ことが多い
- カラーモード:RGB か CMYK か、グレースケール推奨か
- サイズ:1段組幅(約 85 mm)/2段組幅(約 170 mm)に収まるか
- フォント:図中のフォント(Arial / Helvetica など)と最小ポイント数(6 pt や 8 pt 以上)の指定
- Figure legend の置き場所:本文末にまとめるか、各図ファイルに埋め込むか
加えて、図表番号の付け方やキャプションの書き方が変わる こともあります。たとえば、Fig.1と Figure 1、Table 1と TABLE 1、サブパネルが(a)(b)(c) か A, B, Cか─こうした細部までジャーナルごとに統一されています。
カラーチャージ(color figure charge)の有無もここで確認しておきたいポイントです。「オンライン版はカラー、印刷版はモノクロ」という運用のジャーナルでは、グレースケールでも判別できる配色(色覚多様性への配慮も含めて)になっているか、再投稿前にチェックしておくと安心です。
④ Abstractの文字数と構成 ― 「縮める」より「組み替える」方が大変
Abstract(抄録)もジャーナルごとのルールが細かく決まっており、軽視できない項目です。
主に確認すべきは、
- 文字数(word count)制限:150 / 200 / 250 / 300 words など、ジャーナルにより幅がある
- 構造(structured / non-structured):
- Structured 例:Background / Methods / Results / Conclusions
- 別のジャーナル:Objective / Design / Setting / Participants / Intervention / Main Outcome Measures / Results / Conclusions (特に臨床系で細分化)
- Non-structured:見出しなしの一段落
- 見出しの表記(太字か、ピリオド区切りか)
- 引用・略語・統計値の扱い:Abstract内での引用を禁止するジャーナル、初出略語のスペルアウトを必須とするジャーナルなどがある
そして実務的に最も負荷が高いのが、「300 words の non-structured」から「200 words の structured」への変更 のような、語数を削りつつ構造を組み直すパターンです。単に文章を短くするだけなら気合いで何とかなりますが、内容を Background / Methods / Results / Conclusionsに再分配し、各セクションのバランスを取りながら100 words 削るのは、本文を一本書き直すのに近い労力がかかります。
逆方向(短い non-structured → 長い structured)も、「何を足すか」を考える必要があり、決して楽ではありません。
⑤ Cover Letterや投稿書類 ― 本文の外側にも落とし穴がある
投稿時に提出するのは本文と図表だけではありません。付属書類(submission documents) の確認も忘れずに行う必要があります。
ジャーナルによっては、以下のような書類の提出を求められます。
- Cover Letter(編集長宛のレター)
- Conflict of Interest 開示(ICMJE フォームの提出を求めるジャーナルが多い)
- Author Contribution Statement(CRediT taxonomy に沿った記載を要求するジャーナルも増加中)
- Ethical Approval / IRB承認番号の明記
- Informed Consent に関する声明
- Data Availability Statement
- Reporting Guidelines のチェックリスト:CONSORT(RCT)、PRISMA(システマティックレビュー)、STROBE(観察研究)、ARRIVE(動物実験)、CARE(症例報告)など
- Preprint の取り扱いに関する申告
ここでとても多い「やってしまいがちなミス」が、前のジャーナル名がCover Letterに残ったまま というケースです。"We are pleased to submit our manuscript to Journal of XXX..."の "Journal of XXX" が前回のジャーナル名のまま、というのは笑い話ではなく、編集部の第一印象を大きく損ねる現実的なリスクです。
また、最近は Cover Letterの中身そのものに細かい要求 を出すジャーナルが増えています。たとえば、
- 本研究のノベルティを明示すること
- このジャーナルに投稿する理由を述べること
- 推奨査読者(suggested reviewers)/除外希望査読者(opposed reviewers)の指定
- 他誌への同時投稿でないことの宣言
- すべての著者がオーサーシップ基準を満たしていることの確認
など、Cover Letter を単なる挨拶状ではなく 査読プロセスの入口書類 として扱うジャーナルが主流になりつつあります。本文の規程だけ読んでCover Letterを書き始めると、必要な記載が抜けてしまうので、Author Guidelinesの「Cover Letter」セクションは必ず確認してください。
フォーマット調整は、想像以上に時間を食う
実際にご相談をいただくお客様からは、こんな声をよく伺います。
「論文内容の修正より、投稿規程対応の方が面倒だった。」 「投稿規程を読み込む時間が、正直なところ取れない。」 「リバイズ作業と並行して別ジャーナル用の整形をやっていて、どちらが今どの状態かわからなくなった。」
研究者の本来の時間は、研究そのもの、データ解析、次の論文執筆、グラント申請、学生指導に向けられるべきものです。一方で、投稿規程の読み込みとフォーマット調整は、「やれば誰でもできる」けれど「やると数日溶ける」典型的な作業でもあります。
さらに厄介なのは、ジャーナルの公式サイト内で投稿規程の記述が矛盾していることが稀にある という点です。「Author Guidelines のページにはこう書いてあるが、Submission Portal の指示は別のことを言っている」「PDF版とHTML版で文字数制限が違う」といった事例は、実際の現場で時折出くわします。こうした規程を英語で精読し、矛盾点を整理しながら原稿側を調整していくのは、研究者にとって相当な負担です。
NAIの「投稿先変更フォーマット調整プラン」
こうした再投稿時の負担を軽減するために、NAIでは 「投稿先変更フォーマット調整プラン」 をご用意しています。
投稿先のジャーナル規程を一から読み込んだうえで、
- タイトルページの調整(著者情報、所属、ORCID、ダブルブラインド対応)
- 引用文献スタイルの変換と最終目視チェック
- 図表のレイアウト・解像度・ファイル形式の確認
- Abstractの語数・構造の再構築
- Cover Letterおよび付属書類の整備(前ジャーナル名の混入チェックを含む)
を実施し、再投稿準備をスムーズに進められるようサポートいたします。
論文本文の中身には手を加えず、ジャーナル変更に伴うフォーマット対応だけを効率的に片付けたい ──そんな方に最適なサービスです。リジェクトから次の投稿までの時間を1日でも短くしたい、本来の研究時間を取り戻したい、という研究者の方は、ぜひ一度ご相談ください。
論文採択というゴールに向けて、本文だけでなく、レスポンスレターの品質にもぜひ目を向けてみてくださいね。皆様の研究が、よりスムーズに世に出ていくことを、心から願っております。
投稿先変更フォーマット調整プランを含む「リバイス(再投稿論文)原稿サポート」ページへ
https://www.nai.co.jp/revise/
エヌ・エイ・アイ株式会社の論文サポートページへ
https://www.nai.co.jp/
