英語論文を書く際、「研究内容には自信があるのに、文章に自信が持てない」と感じたことはありませんか。
実験デザインもデータ解析も丁寧に積み上げてきた。図表も洗練されている。それなのに、いざ英語で書き始めた瞬間、筆が止まってしまう―そんな声を、私たちは日々多くの日本人研究者から伺っています。
実は、多くの海外ジャーナルの査読者や編集者が見ているのは、研究内容だけではありません。論文が正確で、読みやすく、誤解なく伝わる文章になっているかも重要な評価ポイントです。査読者は限られた時間のなかで多数の論文を読みます。そのため、最初の数段落で「この論文は読みやすい」と感じてもらえるかどうかが、その後の評価にも少なからず影響します。
情報があふれる現代では、信頼できる科学的知見を正しく伝えることの重要性はますます高まっています。SNSやプレプリントサーバーを通じて研究成果が瞬時に世界へ拡散する時代だからこそ、科学論文には「誰が読んでも同じように理解できる文章」が求められます。誤解を招く一文が、意図せず研究の価値を損ねてしまうことも珍しくありません。
今回は、長年日本人研究者の論文を校閲してきたネイティブエディターの経験をもとに、日本人著者によく見られる特徴を4つのポイントに整理してご紹介します。どれも一朝一夕には解決しにくいものですが、意識するだけで論文の印象は大きく変わります。
1. 「the」の使い方は永遠の課題
英語論文で最も多く修正される項目の一つが冠詞です。
特に「the」は日本語には明確に対応する表現がないため、多くの日本人研究者が苦労します。
「どこでtheが必要なのか」
「aとの違いは何か」
「無冠詞でよいのか」
これらは文法書を読むだけでは身に付きにくく、多くの英文に触れ、ネイティブの修正を見ることで少しずつ感覚が養われます。
冠詞の使い分けは、単なる文法規則ではなく「その名詞が読者にとって特定できるものかどうか」という書き手の判断を反映しています。たとえば、Introductionで初めて登場する概念に “the” を付けてしまうと、ネイティブ読者は「以前どこかで触れられていたはずだ」と一瞬立ち止まってしまいます。逆に、Methodsで先行研究のプロトコルを引用しているのに “a” を使ってしまえば、その手法が確立されたものなのか、著者独自のものなのかが曖昧になります。
冠詞の選択は、論文全体の論理構造と密接に結びついています。だからこそ、ネイティブエディターの修正履歴を見返すことは、単なる英語学習を超えた「英語での論理展開の型」を学ぶ機会にもなります。査読対応や次回の投稿時にも活きる、長期的な資産になるのです。
2. “respectively” に頼りすぎていませんか?
例えば、
The results were 40.5 mL, 56.7 mL, and 89.4 mL for Stage 1, Stage 2, and Stage 3, respectively.
という文章は文法的には正しいものの、読者は数値と項目を頭の中で対応させる必要があります。
一方、
The result for Stage 1 was 40.5 mL, for Stage 2 was 56.7 mL, and for Stage 3 was 89.4 mL.
と書けば、一目で理解できます。
英語論文では、「正しい英文」であることだけでなく、「読者が読みやすい英文」であることも非常に重要です。
“respectively” は非常に便利な単語ですが、便利であるがゆえに使いすぎてしまう傾向があります。特に3つ以上の項目を並べた場合、読者は視線を数値の列と項目の列との間で行き来させる必要があり、読解の負荷が急激に上がります。図表であれば一目で分かる情報も、“respectively” 構文にしてしまうと、かえって読みにくくなってしまうのです。
さらに注意したいのは、“respectively” を使うと、項目と数値の順序が完全に一致していることが暗黙の前提になる点です。もし途中で順序が入れ替わると、読者は誤った対応関係で情報を受け取ってしまいます。数値の順に項目を並べ直す、あるいは表として提示する、といった代替手段を検討することで、読者が誤解する余地をぐっと減らせます。
査読者にとって「読みやすい論文」とは、内容を把握するのに余分な認知的コストがかからない論文のことです。細部の言い回しが、実は採択率にじわりと効いてくるのです。
3. 長文より短文の方が伝わる
日本語では、一つの文に多くの情報を盛り込むことは珍しくありません。
しかし英語では、長い一文よりも短い文を積み重ねた方が理解しやすい場合がほとんどです。
一文が長くなるほど、
- 主語と述語の関係が分かりにくい
- 修飾関係が複雑になる
- 読者が途中で内容を見失う
といった問題が起こりやすくなります。
「短く、シンプルに書く」ことは、英語論文では大きな武器になります。
日本語の学術文章では、「〜であり、〜については〜と考えられるが、一方で〜という側面もあり、したがって〜」といった長い一文がむしろ知的な文章とみなされる傾向があります。この感覚をそのまま英語に持ち込むと、関係代名詞や分詞構文が幾重にも重なり、主語がどこにあるのか分からない文章が生まれてしまいます。
英語論文における理想的な文の長さは、一般的に20〜25語程度と言われています。もちろん例外はありますが、40語を超える文が続くようであれば、一度分割を検討してみる価値があります。「一つの文に一つの主張」を意識するだけで、論理の流れが格段にクリアになります。
また、短文を積み重ねる書き方は、査読者が該当箇所を指摘しやすいというメリットもあります。修正依頼が出た際にも、著者側で対応する範囲が明確になり、リバイズの時間短縮にもつながります。読み手にも書き手にもやさしい、実務的な選択なのです。
4. r と l は発音だけでなくスペルにも注意
日本人が苦手とされる「r」と「l」。
これは会話だけでなく、論文でもスペルミスとして現れることがあります。
もちろん最近ではスペルチェック機能も発達していますが、専門用語や固有名詞では見逃されるケースもあります。
最終提出前には、第三者の目で確認することも重要です。
たとえば、“clinical” と “crinical”、“parallel” と “paralell”、“regulation” と “leglation” のような取り違えは、辞書に載っている単語同士のミスではないため、標準のスペルチェッカーが警告を出さないことがあります。特に固有の遺伝子名、化合物名、機器名、地名などは、既存の辞書に登録されていないため、誤ったまま最終稿まで残ってしまうリスクが高い領域です。
また、“trial” と “trail”、“casual” と “causal” のような、rとlに関連しない紛らわしいペアも要注意です。これらはスペルチェッカーを通過してしまう上、意味が大きく変わるため、査読者に「著者は本当に注意深く原稿を確認したのか」という印象を与えかねません。
対策としては、提出前に必ず「音読」してみることをおすすめします。声に出すと、目で追うだけでは気づかない違和感を拾いやすくなります。加えて、共著者以外の第三者――理想的にはネイティブエディター――に一度目を通してもらうことで、著者本人の思い込みによる見落としを防げます。
日本人研究者の論文には大きな強みもある
ここまで改善点をご紹介しましたが、ネイティブエディターが共通して評価している点もあります。
それは、
- データが豊富であること
- 実験が丁寧であること
- 結論に論理性があること
です。
つまり、日本人研究者の論文は研究そのものの質が非常に高いケースが多く、英語表現を改善することで、その価値をさらに正確に世界へ伝えられるようになります。
海外の研究者と比べても、日本人研究者の原稿は「データの網羅性」と「議論の慎重さ」で際立っています。過剰な主張を避け、限界(limitations)を丁寧に議論する姿勢は、査読者からの信頼を得やすい強みでもあります。この誠実さを、英語表現の壁で損なってしまうのは、あまりにもったいないことです。
英語のブラッシュアップは、研究の価値を「翻訳」する作業ではなく、研究の価値を「解放」する作業だと私たちは考えています。せっかく積み上げた成果を、言語の壁で埋もれさせないために、外部のプロを活用するという選択肢をぜひ検討してみてください。
英語表現だけでもプロに相談できます
「全文校閲までは必要ないけれど、英語を自然にしたい」
「投稿前にネイティブにチェックしてほしい」
そんな場合には、NAIのカジュアル校正がおすすめです。
短めの原稿やアブストラクト、研究計画書などをリーズナブルにネイティブエディターが確認し、自然で読みやすい英語へブラッシュアップします。特に投稿直前の最終確認や、共同研究者への英文メール、グラント申請書の要旨など、「重要度は高いけれど分量は多くない」場面で活用いただくケースが増えています。
また、国際学会で英語発表を予定している方には、スライドや原稿の校閲に加え、ネイティブによるレコーディングサービスもご利用いただけます。
発音やイントネーションのお手本を聞きながら練習できるため、英語でのプレゼンテーションに不安がある方にも好評です。オンライン開催が定着した近年では、事前録画された発表動画の提出を求める学会も増えており、こうしたサービスの需要はさらに高まっています。
研究成果は、伝わって初めて価値を発揮します。
研究内容に自信があるからこそ、その魅力を最大限に引き出す英語表現にもぜひこだわってみてください。あなたの研究が、世界中の読者に正しく届くために、私たちがお手伝いできることは少なくありません。
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