ChatGPTなどの生成AIを使えば、英語論文の文法や表現を投稿前にかなり細かくチェック、修正できるようになりました。

それでも、投稿先によっては、初稿の投稿時に専門分野の知識を持つ英語ネイティブや校閲会社に英文校閲を受けることや、「校閲証明書(Editing Certificate)」の提出を求められる場合があります。

AIで英文をチェックできる時代に、なぜ人による英文校閲を受けたことを示す証明書が必要なのでしょうか。

ここでまず知っておきたいのは、校閲証明書は「この論文の研究内容は正しい」「この論文は採択される」と保証する書類ではないということです。

その意味を、現在の学術出版におけるAI利用も含めて考えてみましょう。

校閲証明書は「実際に英文校閲を受けた」ことを示すもの

校閲証明書は一般に、対象となる原稿について、英文校閲会社や専門家による英文校閲が行われたことを示す書類です。

大手学術出版社が提供する英文校閲サービスを見ても、その位置づけは明確です。

Springer Nature Author Servicesでは、英文校閲を受けた原稿について、専門分野の知識を持つ英語ネイティブによって校閲されたことを確認する証明書を発行しています。

Wiley Editing Servicesでも、Editing Certificateは、原稿が英語ネイティブによって校閲されたことを確認するものであり、ジャーナルのEditorが英文についてreviewed and verifiedされていることを確認するために利用できると説明されています。

つまり校閲証明書の重要なポイントは、単に、

「この原稿の英語は問題ありません」

と宣言することではなく、

「この原稿について、実際に専門家による英文校閲が行われました」

という事実を示すことにあります。

AIで英文を整えることと、人が確認することは同じではない

では、生成AIですでに英文を十分にチェックしている場合はどうでしょうか。

現在の生成AIは、文法やスペルの修正だけでなく、文章を読みやすくしたり、より自然な学術英語に書き換えたりすることもできます。

実際、Elsevierも現在のポリシーで、原稿作成におけるAIの利用を一律に禁止しているわけではありません。文章のlanguageやreadabilityを改善することなどにAIを利用できるとしています。

一方で、Elsevierは同じポリシーの中で、AIを人間のcritical thinking、expertise、evaluationの代替として使用してはならないとしています。

AIが生成した内容については、正確性、完全性、偏りなどを人間が確認し、引用文献についても誤りや架空の文献がないか検証することを著者に求めています。

つまり、現在の学術出版においては、

「AIを使ってはいけない」

のではなく、

「AIを使ったとしても、最終的な確認と責任をAIに任せることはできない」

という考え方が重要になっています。

AIの英文は「自然に見えるからこそ」確認が必要なことも

生成AIを利用した英文で注意したいのは、必ずしも分かりやすい文法ミスだけではありません。

たとえば、著者が、

X was associated with an increased risk of Y.

と書いていた文章が、AIによる修正で、

X increased the risk of Y.

となったとします。

どちらも英文としては自然です。

しかし前者は「XとYのリスク増加に関連が認められた」という表現であるのに対し、後者は「XがYのリスクを増加させた」と因果関係を示す表現に変わっています。

同じように、

X may improve Y.

が、

X improves Y.

となれば、可能性を示していた文章が、より断定的な表現になります。

こうした変化は英文として不自然ではないため、通常の文法チェックだけでは見つけにくい問題です。論文全体を確認する校閲者であれば、研究デザイン、結果、DiscussionやConclusionなどとの整合性から、表現が強すぎる可能性や記述の不一致を指摘できる場合があります。

ただし、校閲者が著者の本来の意図を完全に把握できるわけではありません。そのため、専門的な英文校閲による第三者の確認に加えて、最終的には著者自身が、修正された英文が研究内容を正確に反映しているかを確認することが重要です。

AIが生成した文章について人による確認が求められる理由の一つは、ここにあります。

校閲証明書は「AIを使っていない証明」ではない

ここは、AI時代の校閲証明書を考えるうえで重要な点です。

校閲証明書は、その原稿でAIが使われていないことを証明する書類ではありません。

また、AIで作成・修正した原稿だから、校閲証明書を取得できないということでもありません。

証明する対象は、基本的に**「その原稿について所定の英文校閲が行われたこと」**です。

したがって、

AIで英文を作成・修正する

著者自身で内容を精査、修正する

専門家による英文校閲を受ける

校閲を受けた原稿について校閲証明書が発行される

という流れも成立します。

AI時代に考える「校閲証明書」の意義

ここまでを踏まえると、AI時代だから校閲証明書の意味がなくなった、とは言えません。

ただし反対に、「AI時代になったからジャーナルが人による校閲証明を重視するようになった」と断定できる根拠も、現時点では確認できません。

しかしながら、確かな事として、大手出版社がAIによる原稿作成支援を認めながらも、人間による確認と最終的な責任を明確に求めていることです。

したがって、校閲証明書の意義は、投稿する原稿について、AIによるチェックとは別に、専門家による英文校閲というプロセスを経たことを第三者に示せる点にあると考えるのが適切でしょう。

NAIでも「校閲証明書」の発行はできます

NAIでも、NAIが英文校閲を行った原稿について、校閲証明書を発行することができます。NAIの校閲証明書では、専門分野の知識を持つ英語ネイティブが校閲したことを明記しています。

加えて、AIを利用して作成・修正した原稿の英文校閲をご依頼いただけます。その場合、AIを使ったかどうかにかかわらず、実際の原稿を校閲者が確認し、必要な英文校閲を行います。

一方、AIですでに英文を十分に修正している場合でも、NAIが英文校閲を行っていない原稿に対して、校閲証明書だけを発行することはできません。

校閲証明書は「英文がきれいに見えること」に対して発行するものではなく、NAIがその原稿について実際に英文校閲を行ったことを示す書類だからです。 初稿投稿時にジャーナルから校閲証明書の提出を求められている場合は、投稿規定で求められている内容を確認したうえで、必要な英文校閲を受けてから投稿することが重要です。