学会発表の準備をしていると、

「スライドは何枚くらい必要だろう?」

「英語でどう説明すれば伝わるだろう?」

「せっかく研究したのだから、できるだけ多くのデータを見せたい」

と悩むことはありませんか?

特に英語での口頭発表では、研究内容そのものだけでなく、限られた時間の中で、研究のポイントを聴衆に分かりやすく伝える力が求められます。

実は、NAIでは2017年11月にも「How to deliver an excellent oral presentation; some do’s and don’ts」というコラムを掲載し、英語での口頭発表について紹介していました。

NAI 2017年コラム「How to deliver an excellent oral presentation; some do’s and don’ts」

そこでは、優れた口頭発表を行うためのポイントとして、

  • 発表時間を超えない
  • スライドはシンプルにする
  • 図表や文字を見やすくする
  • 発表全体に一貫したテーマを持たせる
  • 研究チームへの貢献をAcknowledgementsで示す

という考え方が紹介されています。

今回は、この2017年のコラムをあらためて取り上げ、現在の学会発表にも応用できる「伝わる英語プレゼンテーション」のポイントとして詳しく考えてみましょう。


1.最初のルールは「時間を超えない」

2017年のコラムでは、最初に非常に明確なルールが示されています。

“The first rule is that your talk should never over-run its allotted time.”

つまり、与えられた発表時間を絶対に超えないことです。

これは当たり前のように思えるかもしれません。しかし、実際の学会では意外と重要なポイントです。

たとえば10分間の発表なのに、練習では12分かかっている。

「本番では少し早口になるから大丈夫」

「このスライドは時間がなければ飛ばせばいい」

と考えてしまうこともあるでしょう。

しかし、発表時間は単なる目安ではありません。

学会では、複数の演者が同じセッションで発表します。自分の発表が長引けば、次の演者の発表時間にも影響します。また、セッション全体の進行を管理しているChairにも負担をかけることになります。

元コラムでも、時間を超えることはChairだけでなく、fellow speakers(同じセッションで発表する他の演者)に対しても失礼にあたると指摘しています。

つまり、「時間内に終える」というのは単なるプレゼンテーション技術ではなく、学会という場に参加する研究者としてのマナーでもあるのです。

「話す内容を増やす」のではなく「削る」

時間内に収めるためには、最後になって早口になるのではなく、最初から内容を絞ることが重要です。

研究者としては、「このデータも重要」「この結果も面白い」と思うものがたくさんあるでしょう。

しかし、聴衆が一度の発表で覚えられる情報量には限界があります。

研究者にとって重要な情報と、聴衆がその場で理解すべき情報は、必ずしも同じではありません。

発表前には、

「この発表で聴衆に一番伝えたいことは何か?」

を明確にしてみましょう。

その答えに直接関係しない情報は、思い切って削ることも必要です。


2.「Less is more」――スライドに情報を詰め込みすぎない

2017年のコラムで紹介されているもう一つの重要な考え方が、

“Secondly, less is more.”

です。

「少ないほうが多い」という、一見矛盾した表現ですが、プレゼンテーションでは非常に重要な考え方です。

元コラムでは、スライドのbullet pointsについて、10 wordsを超えないようにするという具体的な目安も示されています。

もちろん、現在のすべての学会で「10 words以内」が絶対的なルールというわけではありません。

大切なのは数字そのものではなく、スライドを文章の読み上げ原稿にしないことです。

スライドに長い文章を書いてしまうと、発表者はその文章を読むことに集中してしまいます。

一方、聴衆もスライドを読みながら発表者の話を聞くことになります。

すると、

「スライドを読む」

「話を聞く」

という2つの作業が同時に発生し、かえって内容が頭に入りにくくなります。

スライドは、発表者が話す内容を補助するものと考えたほうがよいでしょう。

たとえば文章をそのまま載せるのではなく、

Key finding: Treatment significantly reduced inflammation

のように、最も重要なメッセージだけを表示する。

そして、その意味や背景、研究結果については、発表者自身が口頭で説明する。

このほうが、聴衆は「今、何が重要なのか」を理解しやすくなります。


3.「見えるスライド」でなければ、載せていないのと同じ

次のポイントは、図表やデータの見やすさです。

2017年のコラムでは、

“ensure that the figures/data in your slide are legible”

と説明されています。

つまり、スライドに載せた図やデータが、聴衆からきちんと読める状態になっているかを確認するということです。

研究発表では、どうしても多くのデータを見せたくなります。

しかし、研究室のパソコン画面で見ると十分大きく見えたグラフが、学会会場の大きなスクリーンでは意外と見にくいことがあります。

特に注意したいのが、

  • グラフの軸ラベル
  • 凡例
  • 単位
  • p-value
  • 表の文字
  • 注釈
  • 色の違いだけで区別しているデータ

などです。

「データは載っているから大丈夫」ではありません。

聴衆がそのデータを読み取れなければ、発表者にとっては“載せていない”のと同じです。

可能であれば、実際の発表会場を想定して、少し離れた場所からスライドを確認してみるとよいでしょう。

「このグラフの文字は読めるか?」

「この2つのグループの違いは一瞬で分かるか?」

「この表で何を見てほしいのか分かるか?」

という視点で確認することが重要です。


4.「良いデータを全部見せる」より「一つのメッセージを伝える」

研究をしていると、発表に使いたいデータがたくさん出てきます。

しかし、ここで陥りやすいのが、「良いデータがあるから全部入れよう」という考え方です。

2017年のコラムでは、

“Your presentation should have a coherent theme that adheres to the title of the talk.”

と述べています。

つまり、発表全体に一貫したテーマを持たせ、タイトルに沿って話を進めることが重要なのです。

たとえば、タイトルが

Impact of the H1N1 vaccine on acute respiratory illness: a population-based analysis

だったとします。

このタイトルからは、「H1N1ワクチンが急性呼吸器疾患に与える影響を、population-based analysisによって検討した研究」であることが分かります。

それなら、発表もこのメインテーマから大きく外れないように構成する必要があります。

「このデータも面白いから」

「この解析もやったから」

という理由だけで情報を追加していくと、聴衆は、

「結局、この研究で何が分かったの?」

と感じてしまう可能性があります。

データが多いことと、発表が分かりやすいことは別です。

むしろ、重要なデータを厳選し、それぞれを一つのストーリーとしてつなげることが、分かりやすい発表につながります。


5.タイトルは「最初のメッセージ」

一貫性のある発表を作るためには、タイトルも重要です。

元コラムでは、タイトルはconcise(簡潔)であること、可能であれば研究方法も含めることが推奨されています。

タイトルは、聴衆が最初に見る情報です。

長すぎて何についての研究なのか分からないタイトルよりも、

何を研究したのか

何を対象にしたのか

どのような方法で検討したのか

がある程度分かるタイトルのほうが、聴衆はその後の発表を理解しやすくなります。

また、タイトルを決めたら、スライド全体がそのタイトルに答える内容になっているかを確認してみましょう。

発表の最後に、

「このタイトルの問いに、私はきちんと答えただろうか?」

と自問してみるのもおすすめです。


6.最後のAcknowledgementsも忘れない

最後に紹介されているポイントが、Acknowledgementsです。

2017年のコラムでは、研究データの生成に関わったチームや、自分がその場で発表できる理由となった人々への謝意を示すことの重要性が述べられています。

研究は、一人だけで完結するものではありません。

研究計画、実験、患者リクルート、データ収集、解析、統計、研究費の獲得など、多くの人の協力によって一つの研究成果が生まれます。

発表者が研究の「代表者」として壇上に立っていても、その背景には多くのメンバーがいます。

だからこそ、最後のAcknowledgementsは単なる形式ではありません。

「この研究はチームによって成し遂げられた」ということを示す大切な場なのです。


「英語が話せる」だけでは、良い英語プレゼンにはならない

ここまで紹介してきたポイントを見ると、良い口頭発表に必要なのは、単に英語を正しく話す能力だけではないことが分かります。

もちろん、文法や発音が正確であることは重要です。

しかし、それだけでは十分ではありません。

  • 何を伝えるのか
  • どの情報を削るのか
  • どのデータを見せるのか
  • どの順番で説明するのか
  • 聴衆に何を覚えて帰ってもらうのか

といった、「伝え方」そのものの設計が必要です。

特に英語での発表では、日本語で考えた内容をそのまま英語に置き換えればよいとは限りません。

日本語では自然な説明でも、英語の口頭発表では長すぎたり、ポイントが分かりにくかったりすることがあります。

そのため、発表原稿やスライドの英語についても、単なる「英文の間違い探し」ではなく、実際に聴衆へ伝わる英語になっているかという視点で確認することが大切です。


学会発表前に、最後のチェックを

発表直前には、次の5項目を確認してみてください。

□ 発表時間内に終わりますか?

本番で焦らないためにも、実際に声に出して時間を測りましょう。

□ スライドに文章を詰め込みすぎていませんか?

スライドは原稿ではなく、発表をサポートするものです。

□ 後ろの席から図表が読めますか?

グラフや表は「載っている」だけでは不十分です。

□ 発表全体に一つのストーリーがありますか?

「この発表で最も伝えたいこと」を一言で説明できるか考えてみましょう。

□ 研究に関わったメンバーをきちんとAcknowledgementsに入れていますか?

自分の発表であっても、研究はチームで成し遂げたものです。


2017年のコラムから、今の研究者へ

2017年に書かれた「How to deliver an excellent oral presentation; some do’s and don’ts」。

そこから約9年が経ち、学会発表のスタイルやツールは大きく変わりました。オンライン発表やハイブリッド学会が増え、スライド作成にAIを利用する機会も増えています。

それでも、

「時間を守る」

「情報を詰め込みすぎない」

「見やすくする」

「メインメッセージを明確にする」

「研究チームに敬意を示す」

という基本原則は変わりません。

むしろ、情報が簡単に作れる時代だからこそ、何を入れるか以上に、何を入れないかを判断する力が重要になっています。

英語での学会発表を準備するときは、「英語が正しいか」だけでなく、

「この発表は、聴衆に本当に伝わる構成になっているか?」

という視点から、もう一度スライドと原稿を見直してみてはいかがでしょうか。

NAIでは、研究論文だけでなく、研究者の皆さまの英語によるプレゼンテーションをサポートするサービスも提供しています。

「英語として間違っていないか確認したい」という場合だけでなく、「学会発表で伝わる英語になっているか確認したい」という場合にも、ぜひご相談ください。

良い研究をすることと、良い研究を伝えること。

この2つは別のスキルだからこそ、発表前に一度立ち止まって、「自分の研究の一番大切なメッセージは何なのか」を考えてみることが、より伝わるプレゼンテーションへの第一歩になるのではないでしょうか。