AIは「書ける」けれど「正しい」とは限らない
ChatGPTをはじめとする生成AIは、いまや論文執筆に欠かせないサポートツールとして定着しました。英文の推敲、文章構成の整理、考察のアイデア出し、さらには参考文献の検索補助まで――以前なら何時間、いえ何日もかかっていた作業を、驚くほど短時間でこなせるようになっています。
研究者の日常も、この数年で大きく様変わりしました。「AIを全く使わずに論文を書く」という方は、もはや少数派になりつつあるのではないでしょうか。深夜のデスクで英文と格闘していた時間が、AIとの対話によって研究そのものを深める時間に変わりつつあります。
しかし、この圧倒的な便利さの陰で、見落とされがちなリスクが静かに広がっています。それは、AIは「もっともらしい文章」を作ることは得意でも、その内容が正しいことまでは保証してくれない、という根本的な性質です。
流暢な英語、整った論理展開、専門用語の的確な使い分け――そのすべてが揃っていても、記載されている「事実」が正しいとは限らないのです。この落差こそが、AI時代の論文執筆に潜む最大の落とし穴と言えるでしょう。
「それらしい」参考文献は、本当に存在していますか?
生成AIには「ハルシネーション(Hallucination)」と呼ばれる現象があります。日本語では「幻覚」と訳されるこの現象は、AIが事実に基づかない情報を、あたかも真実であるかのように生成してしまう問題を指します。
論文執筆の場面では、たとえば次のような形で現れます。
- 実在しない論文を引用する(著者名、タイトル、雑誌名すべてが架空)
- DOIを一文字だけ間違える(数字の桁がずれる、末尾が違う)
- 著者名を誤って記載する(First authorとCorresponding authorが入れ替わる)
- 巻号やページ番号が異なる(似た号の情報と混同する)
- 雑誌名を古い名称で記載する(改称前の名称のまま出力される)
- 出版年が実際と数年ずれる
厄介なのは、これらの誤りが極めて自然な文章の中に紛れ込むという点です。参考文献リストをざっと眺めても違和感がなく、著者名も雑誌名もそれらしく整っている。DOIの数字列に至っては、正しいのか間違っているのか、目視で判別することはほぼ不可能です。
「AIが提示したのだから、それらしい文献が実在するのだろう」――そう信じて、そのまま原稿へ貼り付けてしまうケースは決して珍しくありません。しかし査読者や編集者がDOIをクリックした瞬間、リンク先が存在しないという事実は容赦なく露呈します。
「あとで確認しよう」が難しい現実
もちろん、多くの研究者は「最後にまとめて確認すれば大丈夫」と考えます。理屈のうえでは、それが最も自然な流れでしょう。
しかし現実の投稿準備の現場では、次のような事情が重なります。
- 参考文献が100本以上ある大型レビューや原著論文
- 共著者ごとに文献管理ソフトが異なる(EndNote、Zotero、Mendeley、手入力の混在)
- 修正を繰り返すうちにReferenceが更新される(追加、削除、順序入れ替え)
- 投稿締切が迫っているなかでの最終チェック
- 共同研究者からの追記や修正が直前まで続く
こうした状況下で、Reference listを一件ずつ、DOIをクリックし、著者名を照合し、掲載号を突き合わせて確認する時間を確保するのは、想像以上に困難です。
さらに深刻なのは、AIで作成した部分と自分で書いた部分が混在してしまうという問題です。「この段落はAIに整えてもらった」「ここは自分で書き足した」「ここは共著者が加筆した」――こうした境界が曖昧になるにつれ、「どこまで確認したか」の記憶も薄れていきます。
そして最後には、こう思ってしまうのです。
「たぶん大丈夫だろう。」
その"たぶん"が、投稿後の思わぬ指摘や、査読でのRejection、最悪の場合は掲載後の訂正・撤回にまでつながる可能性があります。信頼を積み上げるには長い時間が必要ですが、失うのは一瞬です。
英文校閲では確認しない内容もある
「英文校閲を依頼しているから、その辺りも見てもらえているのでは?」
そう考える方も少なくありません。プロフェッショナルのネイティブスピーカーが確認しているのだから、間違いも拾ってくれているはず――そう思うのは自然な発想です。
しかし、一般的な英文校閲サービスの目的は、あくまで英語表現、文法、論理の流れを改善することにあります。校閲者の役割は「文章を読みやすく、学術的に適切な英語に整えること」であり、その専門性は言語そのものに向けられています。
したがって、
- DOIが正しいか(実際にクリックして飛べるか)
- 著者名に誤りがないか(スペル、イニシャル、順序)
- 掲載誌や巻号が一致しているか(実在する号か)
- 引用元の主張と本文の記述が整合しているか
といった**事実確認(ファクトチェック)**は、通常の英文校閲の対象外であることがほとんどです。
つまり、「英文が自然だから」「ネイティブが見たから」といって、参考文献情報の正確性や、本文中に登場する固有名詞・数値の正確性まで保証されるわけではないのです。ここに、多くの研究者が気づかないまま抱えているリスクがあります。
投稿前に「事実」を確認するという選択
だからこそ、投稿前には**「文章の質」と「事実の正確性」を分けて考える**ことが重要です。この二つは似ているようで、まったく別の作業であり、別の専門性を必要とします。
NAIでは、英文校閲とは別に投稿前ファクトチェックをご用意しています。
このサービスでは、Reference listを中心に、
- DOI(実在確認、リンク到達性)
- 著者名(スペル、順序、イニシャル)
- 雑誌名(正式名称、略称)
- 巻号・ページ情報(掲載号との整合性)
- 出版年(実際の掲載年との一致)
などの整合性を丁寧に確認し、誤りや不一致があれば具体的に指摘します。また、必要に応じて、AIレポート内でハイライトされた固有名詞や専門用語などについても確認を行います(対応範囲には条件があります)。
なお、このサービスは修正を行うものではなく、確認結果をお伝えするサービスです。そのため、著者ご自身が内容を理解したうえで最終判断を行いながら、安心して投稿準備を進めることができます。修正権を著者に残すことは、研究の主体性を守るうえでも大切な設計です。
ファクトチェックだけのご利用も可能です
「英文校閲はすでに済んでいる。」 「他社で校閲を受けたので、英語には問題ない。」 「AIを使った部分だけが少し心配。」
そのような場合でも、投稿前ファクトチェックは単品でご利用いただけます。他社の校閲サービスと組み合わせても、AIツールと併用しても、まったく問題ありません。
AIは研究を大きく効率化してくれる、間違いなく強力なパートナーです。しかし、最後に論文の信頼性を支えるのは、「事実が正しいか」を確認するひと手間にほかなりません。それは著者にとっての誠実さの証であり、査読者や読者への敬意でもあります。
投稿ボタンを押す前に、参考文献や引用情報に少しでも不安がある方は、ぜひNAIの投稿前ファクトチェックをご活用ください。英文校閲とは異なる視点から、投稿前のリスク低減をサポートいたします。あなたの研究成果が、正確な形で世界に届くために。
▼NAIのAI依存度低減校閲
https://www.nai.co.jp/correction/aicheck.html
▼NAIの投稿前ファクトチェック
https://www.nai.co.jp/correction/factcheck.html
