生成AIに研究内容を説明すれば、見栄えのよいイラストや図案を短時間で作れるようになりました。では、ジャーナルに投稿するためのGraphical Abstract(グラフィカルアブストラクト)も生成AIで作って問題ないでしょうか。
答えは、投稿先のルールによって異なります。特に注意したいのは、本文作成へのAI利用と、画像・図へのAI利用が同じ扱いとは限らないことです。
Graphical Abstractは「見栄えのよい画像」だけではない
Graphical Abstractは、研究の目的、方法、主要な結果や結論などを視覚的にまとめ、論文の内容を短時間で把握しやすくするためのものです。投稿先によっては、サイズ、ファイル形式、文字量、読み進める方向などの指定があります。
そのため、生成AIで画像を作る場合も、「きれいにできたか」だけでは十分ではありません。研究内容を正しく表しているか、本文やデータと矛盾していないか、使用した画像や素材に問題がないか、そして投稿先がその作り方を認めているかまで確認する必要があります。
「AIで画像を作れる」ことと「投稿に使える」ことは別
現在の画像生成AIでは、文章からイラストを作るだけでなく、模式図の案を出したり、既存の図を整えたりすることもできます。しかし、技術的に可能なことが、そのまま学術出版で認められているとは限りません。
例えばElsevierの2026年8月更新のジャーナル向け方針では、説明用の模式図やフローチャートなど一定の画像への生成AI利用を認める一方、Graphical Abstractについては、一般用途の生成AI画像ツールを使用せず、科学イラスト作成用などの専用ツールを使用するよう求めています。つまり、同じ出版社の中でも「説明用の図」と「Graphical Abstract」で扱いが異なります。
出版社によってルールは同じではない
ここで重要なのは、「生成AI画像はすべて禁止」「Graphical Abstractなら生成AIを使える」と一律に考えないことです。Springer Natureの現行方針では、検証可能なデータや著者が作成した資料などに基づき、透明性や正確性を確保したAI支援の視覚コンテンツには一定の余地があります。一方、検証可能な根拠のない、テキストプロンプトだけから生成した視覚コンテンツは認めないという考え方が示されています。
また、Wiley傘下でもジャーナルごとのAuthor GuidelinesにAI利用やVisual Abstractの条件が記載されている例があります。出版社全体の方針だけでなく、最終的には投稿予定ジャーナルの最新のInstructions for Authorsを確認することが大切です。
どこからが「AI画像」? 作り方を分けて考える
Graphical Abstractの作成では、「AIを使ったかどうか」だけでなく、どの工程で、何のために使ったかを整理すると確認しやすくなります。
・文章だけを入力し、Graphical Abstractの画像そのものを生成した
・研究内容を基に、模式図やアイコンを生成した
・自分で作成した図をAIで加工・修正した
・構成やレイアウトのアイデアだけをAIに相談し、図そのものは自分で作成した
・元データからグラフ等を作成する工程でAIを利用した
これらは、出版社のポリシー上、必ずしも同じ扱いになるとは限りません。特に、実験画像や観察画像などの一次研究画像は、概念を説明するイラストとは性質が異なります。AIによる生成・改変が研究結果そのものを変えて見せることがないよう、より厳格な確認が必要です。
投稿前に確認したい5つのポイント
1. 生成AI・AI-assisted imageに関する出版社とジャーナルの最新ポリシーはどうなっているか
2. Graphical Abstractの作成に使用できるツールについて指定があるか
3. AI利用をcaption、AI disclosure、Methodsなどに記載する必要があるか
4. サイズ、ファイル形式、文字量、権利・ライセンスなどの提出条件を満たしているか
AIに作成を依頼する前に、この4点を確認しておけば、「完成してから投稿に使えないことが分かった」という事態を避けやすくなります。
Graphical Abstractで本当に難しいのは「何を見せるか」
Graphical Abstractでは、すべての研究情報を一枚に詰め込むことはできません。研究目的、方法、主要結果、結論のうち、何を中心に見せるかを決め、本文と齟齬がないように情報を絞る必要があります。生成AIは図案作成の補助にはなりますが、どの情報が研究の中心なのか、どこまで簡略化してよいのかという判断は、研究内容を理解したうえで行う必要があります。
また、投稿先によってGraphical Abstractの仕様は異なります。
NAIの投稿規程チェックでは、Graphical Abstractについても、投稿規程の確認を行っております。
投稿前には「内容」だけでなく「投稿先のルールに合っているか」という視点でも確認しておくと安心です。
参考情報(2026年9月確認)
Elsevier: Generative AI policies for journals / Images and artwork
このページ内の “The use of generative AI and AI-assisted tools in figures, images and artwork” に、Graphical Abstractを含む画像生成AIの扱いがあります。www.elsevier.com
Elsevier: Graphical abstract in Elsevier journals
Graphical Abstractのサイズ、形式、作成上の注意点に加え、生成AI利用はElsevierのAIポリシーに従うことが明記されています。www.elsevier.com
*なお、Elsevierの公式ページは現在かなり具体的で、一般用途の生成AI画像ツールはGraphical Abstract作成に使用しないと明記する一方、BioRenderやMind the Graphなどの専用科学イラストツールの利用を案内しています。
Springer Nature: AI Use in Manuscript Preparation
Springer Natureの現在のAI利用方針です。AIを使ったかどうかだけではなく、どのように利用したかをリスクベースで扱う方針になっています。
