論文投稿を準備されているお客様から、Preprint(プレプリント)についてご質問をいただくことがあります。

「すでにPreprintとして公開した論文を、ジャーナルにも投稿できますか?」

「Preprintに公開したことは、投稿時に申告する必要がありますか?」

「査読中にPreprintを更新しても問題ないのでしょうか?」

Preprintは、一般に査読を受ける前の研究論文を公開する仕組みです。研究成果を早く共有できる一方で、ジャーナルへの投稿や採択後の取り扱いについて、迷うこともあるでしょう。

結論から言えば、Preprintとして公開済みの論文でも、多くのジャーナルでは投稿が認められています。 ただし、投稿時の申告や査読中の更新、採択後の公開については、確認すべき点があります。

今回は、Nature PortfolioやSpringer Natureなどの公式方針を参考に、Preprintを公開した論文をジャーナルに投稿する際のポイントを整理します。

Preprintに公開した論文は「既発表」にならない?

ジャーナルへの投稿で気になるのが、Preprintとして公開した論文が「すでに発表済みの研究」と判断されないか、という点です。

例えば、Nature Portfolioでは、Preprintサーバーへの原稿公開を推奨しており、Preprintの公開は既発表とはみなされず、ジャーナルでの掲載検討を妨げないと明記しています。

Springer Natureも、Preprintの公開を既発表とはみなさない基本方針を示しています。

ただし、これはPreprintを公開した論文であれば、どのジャーナルにも投稿できるという意味ではありません。投稿先によっては、Preprintの公開先や公開時期、査読方式などに関する独自の規定が設けられている場合があります。

Preprintとして公開済みでも投稿できるかどうかは、最終的には投稿先ジャーナルの方針で判断する必要があります。

投稿時にはPreprintの公開を申告する?

Preprintを公開した論文を投稿する場合、公開先の情報を申告する必要があるか確認しましょう。

Nature Portfolioでは、投稿時にPreprintのDOIやライセンス情報などを開示するよう求めています。また、医学系ジャーナルの編集・出版に関する指針を示すICMJEも、Preprintとして公開した論文を投稿する場合、著者はその事実を投稿先に伝え、Preprintへのリンクを提供するよう求めています。

投稿システムにPreprintに関する入力欄があれば、指定された情報を記入します。Cover Letterでの申告が求められる場合は、例えば次のように記載できます。

A preprint version of this manuscript is available on bioRxiv (DOI: [DOI]).

(本原稿のプレプリント版はbioRxivで公開されています(DOI:[DOI])。)

なお、Preprintの公開自体が認められていても、申告方法はジャーナルによって異なります。投稿前にInstructions for AuthorsやPreprint Policyを確認しておきましょう。

Preprintと投稿原稿は同じ内容でなければならない?

Preprintを公開した後、追加解析や共同著者との確認、読者からのフィードバックによって、原稿を修正することもあるでしょう。

Preprintとジャーナルへの投稿原稿が、必ずしも完全に同一である必要はありません。

例えば、Preprintの公開後に追加実験を行ったり、解析方法を見直したり、Discussionを修正したりしてからジャーナルへ投稿するケースが考えられます。

ただし、公開済みのPreprintと投稿原稿で研究の主要な結果や結論が大きく異なる場合は、どのような変更を加えたのか把握しておくことが重要です。

また、Preprintサーバーでは修正版を新しいバージョンとして公開できる場合がありますが、公開済みの版が削除・上書きされるとは限りません。

Preprintを公開した後も原稿を修正できることと、すでに公開した内容を自由に差し替えられることは別の問題です。

査読中にPreprintを更新しても大丈夫?

ここは特に注意したいポイントです。

Preprintサーバーでは、修正版を新しいバージョンとして公開できる場合があります。しかし、ジャーナルで査読が進んでいる原稿を、そのままPreprintに反映してよいかは、投稿先の方針を確認する必要があります。

例えば、査読者からのコメントを受けて作成したRevision原稿には、査読過程で得られた情報が反映されていることがあります。

ICMJEは、ジャーナルの査読過程から得られたフィードバックを反映した中間版をPreprintサーバーに掲載しないよう求めています。一方、出版社やジャーナルによっては、査読中のPreprint更新を認める方針が示されている場合もあります。

そのため、「Preprintサーバーで更新できるから、査読中でも自由に公開できる」と判断するのは避けた方がよいでしょう。

特にRevision原稿を公開したい場合は、投稿先のPreprint Policyや原稿共有に関する規定を確認することが大切です。

採択後、Preprintは削除しなければならない?

Preprintを公開した論文がジャーナルに採択されても、通常、Preprintを一律に削除する必要があるわけではありません。

むしろ、公開済みのPreprintから正式な出版論文へアクセスできるようにすることが推奨されています。

例えば、正式な出版論文のDOIが発行された後、Preprintの公開ページにその情報を追加することで、読者が査読後の論文を確認しやすくなります。

ただし、注意したいのが原稿のバージョンと著作権・ライセンスです。

一般に、次の3つは区別されます。

  • Preprint:査読前の原稿
  • Accepted Manuscript:査読を経て採択された原稿
  • Version of Record:出版社による編集・組版などを経た正式な出版版

Preprintとして公開できるからといって、出版社が作成した最終版PDFを自由にPreprintサーバーへ掲載できるとは限りません。

採択後に原稿を共有する際は、出版社の著作権・共有ポリシーと、Preprint公開時に選択したライセンスを確認しましょう。

投稿前に確認したい5つのポイント

Preprintを公開した論文を投稿する際は、次の5点を確認しておきましょう。

1. 投稿先はPreprintを認めているか Preprint PolicyやPrior Publicationに関する規定を確認します。

2. 公開情報を正しく申告しているか Preprintサーバー名、URL、DOI、ライセンスなど、投稿先が求める情報を記載します。

3. Preprintと投稿原稿の違いを把握しているか 公開後に追加・修正した解析、結果、結論などを確認します。

4. 査読中の更新に制限はないか Revision原稿をPreprintに反映する場合は、投稿先の方針を確認します。

5. 採択後の共有方法を理解しているか 正式な出版論文へのリンクや、Accepted Manuscript・最終版PDFの取り扱いを確認します。

Preprintは、研究成果を早く共有できる便利な仕組みです。一方、ジャーナルへの投稿では、Preprintの公開履歴だけでなく、原稿のバージョンや公開条件も整理しておく必要があります。

NAIでは、Preprintの情報をご発注時にご連絡いただいておりましたら、その情報を反映させたフォーマット調整や、Cover Letterの作成が可能です。

Preprintを公開した論文を投稿する際も、投稿先の方針を確認し、必要な申告や原稿の準備を進めましょう。

参考情報

今回の最終版では、Nature PortfolioとSpringer Natureの公式方針を中心に、査読中の更新についてはICMJEの指針も参照しています。
• Nature – Preprints & Conference Proceedings:Preprintの公開、既発表の扱い、投稿時の申告、出版後のリンクについて。
• Springer Nature – Preprints:Preprintは原則として既発表に該当しないという出版社の基本方針。
support.springernature.com
• Springer Nature – How do I submit a new version of my preprint?:Research SquareのIn Reviewにおけるバージョン更新と、Natureブランド誌での制限。
support.springernature.com
• ICMJE – Overlapping Publications(Preprints):公開済みPreprintの申告、査読中の更新、出版後のリンクに関する指針。
Overlapping Publications
• Springer Nature – Version of Record:Preprint、Accepted Manuscript、正式出版版の違い。

注記: 査読中のPreprint更新については、Nature Portfolioが査読中の公開を認めている一方、ICMJEは査読フィードバックを反映した中間版の公開を控えるよう求めています。さらに、Springer NatureのIn ReviewではNatureブランド誌のバージョン更新に制限があります。この違いを踏まえ、本文では一律に「更新できる」「更新できない」と断定しない表現にしています。