「良い論文」とは、どのような論文でしょうか。

研究内容が優れていることは、もちろん重要です。新規性のある研究、信頼性の高いデータ、臨床的・基礎的に価値のある発見。こうした「中身」が論文の価値を決めることは言うまでもありません。

しかし、どれほど価値のある研究であっても、その内容が読者に伝わらなければ、論文として十分に評価してもらうことは難しくなります。

では、研究者が書いた論文を、査読者や読者はどこから読み始めるのでしょうか。

実は、この問いについてNAIでは2017年9月、すでに一つのコラム(https://www.nai.co.jp/recommend/column2017.html)を掲載していました。

タイトルは、

“What makes an article a good article?”

です。

今回は、この2017年9月のコラムをあらためて紹介しながら、「良い論文」とは何なのか、そして現在の英語論文執筆においても変わらないポイントについて考えてみたいと思います。


「良い論文」は、まず「読みたい」と思わせることから始まる

2017年9月のコラムは、非常にシンプルな問いから始まっています。

“What makes an article a good article?”

「何が、良い論文を良い論文にするのでしょうか?」

そして、続いてこのように書かれています。

“Of course the content matters…but to begin with, what triggers one to read it??”

もちろん、内容は重要です。

しかし、そもそも、その論文を「読んでみよう」と思わせるものは何なのでしょうか。

この視点は、現在でも非常に重要です。

論文というと、どうしても「研究内容がすべて」と考えてしまいがちです。

しかし、学術論文も一つの文章です。

読者は、タイトルを見て、Abstractを読み、その研究に興味を持つかどうかを判断します。

つまり、どれほど素晴らしい研究であっても、

「タイトルを見ても何の研究なのか分からない」

「Abstractを読んでも研究の重要性が伝わらない」

「文章が複雑で、何を言いたいのか分からない」

という状態では、研究そのものの価値が十分に伝わらない可能性があります。

だからこそ、論文を書くときには、

「正しい英語を書く」だけではなく、「読者が読み進めたくなる文章にする」

という視点が必要になります。


魅力的なタイトルと、メッセージの明確なAbstract

2017年のコラムでは、良い論文の最初の条件として、タイトルとAbstractについて次のように述べています。

“An attractive title with a clear message that explains its academic value.”

つまり、

「学術的な価値を説明する、明確なメッセージを持った魅力的なタイトル」

です。

論文タイトルは、単に研究内容を並べればよいというものではありません。

もちろん、研究対象や方法、主要な結果などを正確に表現する必要があります。しかし、それと同時に、

「この論文は何についての論文なのか」

を一目で理解できることも重要です。

たとえば、タイトルを見ただけでは研究目的が分からない、何を調べたのかが曖昧、あるいは専門用語が多すぎて内容を想像できない場合、読者の興味を引くことは難しくなります。

そして、タイトルの次に重要なのがAbstractです。

コラムでは、

“Straightforward abstract with a good closing sentence makes the article worthwhile to read.”

と説明しています。

ここで重要なのは、straightforwardという言葉です。

つまり、必要以上に複雑にせず、研究の目的、方法、主要な結果、そしてその意味が明確に伝わるAbstractです。

特に注目したいのが、

“a good closing sentence”

という部分です。

Abstractの最後の一文は、単なるまとめではありません。

「この研究によって何が分かったのか」

「その結果にはどのような意味があるのか」

を読者に残す重要な部分です。

Abstractの最後まで読んだときに、

「なるほど、この研究にはこういう意味があるのか」

と理解できるかどうか。

これは、論文全体の印象にも大きく影響します。


良い論文の基本は「よく整理された文章」

2017年のコラムでは、タイトルとAbstractに続いて、さらに重要なポイントが示されています。

“And most important point of all, a well organized text ? Introduction, M&M, Results, Discussion, and Conclusions in clear and simple English.”

ここで挙げられているのが、

  • Introduction
  • Materials and Methods
  • Results
  • Discussion
  • Conclusions

という論文の基本構成です。

そして重要なのは、それぞれのセクションが存在することだけではありません。

“a well organized text”

つまり、論文全体がきちんと整理されていることです。

これは英語論文を書くうえで非常に重要なポイントです。

英文校閲では、文法や語彙、冠詞、前置詞、スペルなどを確認することができます。

しかし、文法的に正しい英文が並んでいることと、「読みやすく、論理的な論文」であることは同じではありません。

一文一文が正しくても、

「Introductionで問題提起した内容とResultsがつながっていない」

「Resultsで示した結果がDiscussionで十分に解釈されていない」

「Conclusionが本文の内容を単に繰り返している」

といった問題があれば、論文全体としては分かりにくくなります。

だからこそ、論文ではセクション間のつながりが重要なのです。


Introductionでは「何が分かっていて、何が分かっていないのか」を示す

では、具体的に各セクションでは何を書けばよいのでしょうか。

2017年のコラムでは、Introductionについて非常にシンプルな整理がされています。

“The Introduction should include the following points:”

そして、

“1) What’s known”

“2) What is not known”

“3) Problem ? Issues”

“3’) Approach taken in your paper”

と続きます。

つまり、

何が分かっているのか。

何がまだ分かっていないのか。

そこにどのような問題・課題があるのか。

そして、自分たちはその問題に対してどのようなアプローチを取ったのか。

という流れです。

これは、いわゆる「研究のギャップ」を明確にする考え方にもつながります。

Introductionで重要なのは、単に先行研究をたくさん紹介することではありません。

「これまでにこれだけの研究があります」

で終わってしまうと、読者は、

「それで、今回の研究は何をするの?」

と思ってしまいます。

重要なのは、

既知 → 未知 → 問題 → 本研究のアプローチ

という流れを作ることです。

この流れが明確であれば、読者は「なぜこの研究が必要なのか」を自然に理解できます。


Materials and Methodsは「他の研究者が再現できるか」が重要

次にMaterials and Methodsです。

コラムでは、M&Mについて次のように述べています。

“M&M should have clear and straightforward descriptions of the experimental details sufficient to allow reproduction by other investigators”

つまり、実験の詳細について、他の研究者が再現できる程度に明確かつ簡潔に説明することが重要だということです。

さらに、

“make sure to provide full information on the equipment and reagents used, etc.”

として、使用した機器や試薬などについても十分な情報を記載する必要があるとしています。

Methodsでは、つい「知っている人なら分かるだろう」と考えてしまうことがあります。

しかし、論文は自分自身のための記録ではありません。

読者である他の研究者が、その研究方法を理解できる必要があります。

特に国際誌では、自分の研究室の中では当然のことでも、海外の研究者には当然ではない場合があります。

そのため、

「自分たちには分かる」ではなく、「第三者が読んでも分かる」

という視点が重要になります。


Resultsは「長く書けばよい」というものではない

Resultsについても、2017年のコラムには現在でも参考になる指摘があります。

“Straightforward description of the results with clearly presented tables and/or figures that display the data or details of the study graphically.”

Resultsでは、研究結果を明確かつ簡潔に説明し、必要に応じて表や図を使ってデータを分かりやすく示すことが重要です。

そして、さらに印象的なのが次の一文です。

“Avoid feeling the need to write long and redundant results, if tables and figures are clear enough.”

表や図が十分に分かりやすいのであれば、Resultsを必要以上に長く書く必要はありません。

これは、日本人研究者が英語論文を書く際にも非常に参考になるポイントではないでしょうか。

「詳しく説明しなければ」と考えるあまり、本文で表の内容を一つ一つ繰り返してしまうことがあります。

しかし、

Table 1に示している内容を本文でもほぼ同じ文章で説明し、さらにFigure 1でも同じことを説明する。

これでは、読者にとっては冗長です。

コラムでも、

“Take extra care in not introducing redundancies throughout by repeating the same sentences multiple times.”

と注意しています。

つまり、

「詳しく書くこと」と「同じことを繰り返すこと」は違う

ということです。


論文を書き終えたら、もう一度「5つの質問」をする

2017年のコラムの後半では、論文を完成させる前に、もう一度確認すべきポイントが列挙されています。

“Is the article presented with a clear theme?”

論文全体に明確なテーマがあるでしょうか。

“What are the main results of and importance of the new findings?”

主要な結果は何で、新しい発見にはどのような重要性があるのでしょうか。

そして、それらをConclusionの最後に示すよう勧めています。

さらに、

“Is the organization of the article in good order?”

論文の構成は適切でしょうか。

“Is the text written in clear and simple English with abbreviations and acronyms used in appropriate ways?”

明確でシンプルな英語で書かれているでしょうか。略語や頭字語は適切に使われているでしょうか。

こうした確認をすべて終えたら、

“When all of the above has been accomplished, you are ready for careful proofreading.”

としています。

つまり、ここで初めて、丁寧な英文校閲に進むという考え方です。


英文校閲は「論文の完成」と同じではない

この最後の部分は、現在の論文執筆においても非常に重要です。

英文校閲を依頼するとき、多くの研究者は「英語をきれいにしてもらう」ということを期待します。

もちろん、それは英文校閲の重要な役割です。

しかし、

英語がきれいになったこと=論文全体が完成したこと

ではありません。

研究目的が曖昧なままでも、英文を自然な英語にすることはできます。

IntroductionとDiscussionの論理的なつながりが弱くても、個々の英文を文法的に正しくすることはできます。

Conclusionで研究の重要性が十分に示されていなくても、英語として読みやすく修正することはできます。

つまり、

Language editingとmanuscript improvementは、重なる部分はあっても同じものではありません。

2017年のコラムが最後に「proofreading」を置いているのは、まさにこの考え方を示しているのではないでしょうか。

まず論文そのものを整理する。

そのうえで、最後に英語を整える。

この順番は、現在でも非常に有効です。


2017年から現在へ――AI時代になっても変わらないこと

このコラムが掲載されたのは2017年です。

当時は、現在のようにChatGPTやClaude、Geminiなどの生成AIを論文執筆に活用する環境はありませんでした。

しかし、約9年前に書かれたこの内容を読み返してみると、驚くほど現在の論文執筆にも当てはまります。

現在では、生成AIによって英文の修正や要約、表現の整理は以前より簡単になりました。

「この文章をもっと自然な英語にしてください」

「Abstractを簡潔にしてください」

「この段落を分かりやすくしてください」

といった作業は、AIを使えば短時間で行えます。

だからこそ、これから重要になるのは、

「英語を直すこと」だけではなく、「論文として何を伝えるのか」を考えること

なのかもしれません。

AIが英文を整えてくれたとしても、

  • 研究のテーマは明確か
  • Research Questionは伝わっているか
  • 先行研究とのギャップは明確か
  • この研究を行う必要性が説明できているか
  • ResultsとDiscussionは対応しているか
  • 新しい発見の重要性を示せているか
  • Conclusionで読者に何を持ち帰ってほしいのか

といった問いに答えるのは、依然として研究者自身の重要な仕事です。


「良い論文」は、良い研究を「伝えられる論文」

2017年のNAIコラム、

“What makes an article a good article?”

が伝えていることを一言でまとめるなら、

「良い研究を、読者に分かる形で伝えること」

ではないでしょうか。

魅力的なタイトル。

明確なAbstract。

整理されたIntroduction。

再現可能なMethods。

簡潔で分かりやすいResults。

結果の意味を説明するDiscussion。

研究の重要性を残すConclusion。

そして、それらをつなぐ明確なテーマ。

どれか一つだけが優れていても、論文全体としての完成度が高いとは限りません。

論文は、それぞれのセクションが独立しているのではなく、一つのストーリーとしてつながっています。

「なぜこの研究をしたのか」

「何を明らかにしたのか」

「その結果にはどんな意味があるのか」

という流れが、読者に自然に伝わることが大切です。

そして、その最後に英文校閲があります。

生成AIが普及した現在だからこそ、2017年のこのシンプルな原則を、もう一度見直してみる価値があるのではないでしょうか。

英語を正しくする。

それだけではなく、

研究の価値が伝わるように論文を構成する。

その両方がそろってこそ、読者に「読んでよかった」と思ってもらえる論文につながります。


2017年のNAIコラムを、あらためて読み返してみませんか?

今回ご紹介したのは、NAIが2017年9月4日に公開したコラム、

“What makes an article a good article?”

です。

「良い論文とは何か」という問いに対して、タイトル、Abstract、Introduction、Materials and Methods、Results、Discussion、Conclusion、そしてProofreadingという観点から、非常にシンプルに整理しています。

9年前のコラムではありますが、その基本的な考え方は現在の英語論文にも十分に通用します。

特に、論文を書き終えた後に、

「英文校閲に出せば完成だろう」

と考えている方には、一度立ち止まって、

「そもそも、この論文は何を伝えたいのか?」

を確認していただきたいと思います。

英語を整える前に、論文そのものを見直す。

そして、論文の内容・構成が整理されたところで、最後に丁寧な英文校閲を行う。

この順番を意識するだけでも、論文の完成度は変わってくるはずです。

AIによって英文作成がますます便利になった今だからこそ、「良い英語」だけではなく、「良い論文とは何か」を考えてみてはいかがでしょうか。

NAIの2017年9月コラム: “What makes an article a good article?”

ぜひ、当時のコラム本文もあわせて読み返してみてください。