「英文論文を書いているけれど、文法的には間違っていないはずなのに、なぜか文章が不自然に見える」
「AIで英文をチェックしたから、英語表現はもう大丈夫だろう」
そんな経験はありませんか?
研究論文の英文では、専門的な内容や研究結果そのものに目が向きがちです。しかし、論文を「読みやすく、正確に、誤解なく伝わる文章」に仕上げるためには、実は非常に基本的な英文法も重要です。
今回は、NAIの2017年12月のコラム「校閲者MRからの言葉」を取り上げます。
当時、7年間にわたり科学技術論文の編集に携わっていたエディターM.R.は、日本人研究者の英文について、特に注意すべきポイントとして「冠詞」と「主語・動詞の一致」を挙げていました。
9年前の指摘ですが、これらは現在でも英語論文を書く際に重要なポイントです。
「よい論文英語」とは、難しい英語を使うことではない
まず、2017年12月6日に掲載されたM.R.のコラムから、原文を引用します。
“Scientific editing requires clarity, precision, and speed.”
「科学論文の編集には、明確さ、正確さ、そしてスピードが必要である」という意味です。
続けて、M.R.は自身の編集方針について、次のように述べています。
“Accordingly, as an editor, I aim to present a manuscript in a coherent manner while ensuring that the author’s original meaning and intended emphasis are retained.”
ここで重要なのは、単に「英語として正しい文章に直す」ことだけを編集者の役割としていない点です。
論文の著者が何を伝えたいのか。
どこを強調したいのか。
その意図を維持したまま、論文全体を一貫性のある文章に整える。
これが科学論文の編集において重要だとしています。
さらに、M.R.は次のように述べています。
“Simplicity and conciseness are the hallmarks of a well-written manuscript.”
つまり、よく書かれた原稿の特徴は「シンプルさ」と「簡潔さ」にある、ということです。
論文というと、専門用語を多く使い、複雑な構文で高度なことを表現しなければならないように感じるかもしれません。
しかし、読み手にとって重要なのは、難しい英語ではありません。
「何を研究したのか」
「何が分かったのか」
「その結果から何が言えるのか」
こうした情報が、正確かつ明確に理解できることです。
では、日本人研究者の英文で注意すべきポイントとは?
このコラムで特に興味深いのが、最後の部分です。
M.R.は、日本の研究について次のように評価しています。
“Japan is a global leader in cutting-edge research.”
そのうえで、自身の7年間の科学技術論文編集経験から、日本人研究者の英文を改善する際に特に注意すべきポイントを挙げています。
“In my seven years of experience as a scientific editor, I have found that article usage (a, an, the) and subject-verb agreement (singular verbs for singular subjects and plural verbs for plural subjects) are the primary focus areas for Japanese authors in terms of improving their written English.”
ここで挙げられているのが、
① 冠詞(a, an, the)
② 主語と動詞の一致
の2つです。
どちらも英語学習の初期段階で習う、非常に基本的な文法事項です。
だからこそ、「論文を書くほど英語に慣れている研究者なら、当然できているだろう」と思われるかもしれません。
ところが、実際の科学論文では、このような基本的な部分にも注意が必要です。
「a」「an」「the」は小さな違い。でも意味には関係する
日本語には、英語のような冠詞の仕組みがありません。
そのため、日本語を母語とする人が英文を書く際には、
- a
- an
- the
- 無冠詞
の使い分けが難しいポイントの一つになります。
例えば、
“I conducted experiment.”
という文章を考えてみましょう。
文脈によって適切な表現は変わりますが、一般的には、
“I conducted an experiment.”
のように、不定冠詞が必要になるケースがあります。
また、「ある実験」ではなく、すでに文中で特定されている実験を指すのであれば、
“I conducted the experiment.”
となる可能性があります。
この違いは、日本語では必ずしも明示されません。
そのため、日本語をそのまま英語に置き換えるだけでは、冠詞の判断が難しくなります。
しかも、冠詞は非常に短い語です。
論文全体を見たときには目立たないため、著者自身が何度も読み返しているうちに見落としてしまうこともあります。
「主語と動詞の一致」も、論文では重要
もう一つM.R.が挙げたのが、subject-verb agreement、つまり「主語と動詞の一致」です。
英語では基本的に、
- 単数主語 → 単数形の動詞
- 複数主語 → 複数形の動詞
という対応が必要です。
例えば、
“The result shows that…”
であれば、主語は “The result” なので “shows”。
一方、
“The results show that…”
では、主語が “The results” なので “show” になります。
単純なルールに見えますが、論文では主語と動詞の間に長い修飾語句が入ることがあります。
例えば、
“The results of the experiments conducted under several different conditions show that…”
のような文章です。
この場合、本当に動詞が対応している主語は “The results” です。
“experiments” が複数形なので、その直後にある動詞まで引っ張られてしまうと、誤りにつながる可能性があります。
研究論文では一文が長くなりやすいため、こうした基本的な文法ミスが発生しやすくなります。
なぜ「基本的なミス」が論文では見逃されやすいのか?
ここには、研究者ならではの事情もあります。
論文を書く際、著者が最も注意を払っているのは当然ながら研究内容です。
実験条件は正しいか。
統計解析は適切か。
図表と本文の内容は一致しているか。
先行研究との比較は適切か。
考察に飛躍はないか。
こうした重要な確認に多くの時間を使います。
その結果、冠詞や単数・複数といった細かな文法については、最後に「ざっと確認する」程度になってしまうことがあります。
さらに、自分で何度も書き直した文章は、誤りがあっても気づきにくくなります。
頭の中では「こういう意味」と分かっているため、実際に書かれている英文を正確に読まず、意図した意味を補って読んでしまうからです。
これは、英語を母語とする研究者であっても起こり得る問題です。
だからこそ、第三者によるチェックには意味があります。
「英文校正」は単なるスペルチェックではない
科学論文の英文校閲で求められるのは、単にスペルミスを探すことだけではありません。
例えば、
- 文法的に正しいか
- 冠詞が適切か
- 主語と動詞が一致しているか
- 時制が適切か
- 代名詞が何を指しているか明確か
- 一文が長くなりすぎていないか
- 同じ内容を繰り返していないか
- 文と文の論理的なつながりが分かりやすいか
- 学術論文として自然な表現になっているか
など、さまざまな観点から文章を見る必要があります。
そして、ここで忘れてはいけないのが、M.R.が述べていた、
“ensuring that the author’s original meaning and intended emphasis are retained”
という考え方です。
英文を「きれいにする」ことだけを目的にしてしまうと、著者が本来伝えたかった意味まで変わってしまう可能性があります。
科学論文の英文校閲では、英語として自然であることと同時に、研究者が伝えようとしている科学的な意味を維持することが重要なのです。
AIで英文をチェックする時代だからこそ、最後の確認を
現在では、AIを利用して英文を修正・改善することも珍しくありません。
英文の文法チェックや言い換え、スペルチェックなど、AIによって効率的に確認できる場面は増えています。
一方で、論文では「英語として自然か」だけでなく、「著者が本当にその意味を意図しているか」という確認も必要です。
例えば、AIが文章をより自然な英語にするために表現を変更した結果、著者が意図していたニュアンスが弱くなったり、断定の強さが変わったりする可能性があります。
また、文章単体では自然でも、論文全体の前後関係を見ると不自然な場合もあります。
そのため、AIによる英文チェックを活用する場合でも、最終的には研究内容を理解したうえで文章全体を確認することが重要です。
NAIの論文英文校閲で、投稿前の原稿をもう一度チェック
「英文は一通り書けた。でも、投稿前に専門家に確認してもらいたい」
そんな場合には、NAIの論文英文校閲をご利用いただけます。
NAIでは、科学・医学・工学・農学・獣医学など、さまざまな専門分野の研究論文について、英文校閲・翻訳を行っています。
特に投稿前の論文では、単なるスペルチェックではなく、
「研究者が伝えたい内容が、英語として明確に伝わるか」
という視点で原稿を見直すことが重要です。
冠詞の “a, an, the”。
主語と動詞の一致。
時制。
前置詞。
単数・複数。
そして、文章全体の明確さや簡潔さ。
こうした一つ一つは小さなポイントに見えるかもしれません。
しかし、論文全体では、その積み重ねが読みやすさにつながります。
2017年のM.R.のコラムが示しているのは、最新のAI技術や高度な英文表現以前に、「正確で、明確で、簡潔な英語を書く」という科学論文の基本は変わらないということなのかもしれません。
投稿直前になって「この英文で本当に大丈夫だろうか」と不安になったら、ぜひ一度、第三者の目で原稿を確認してみてください。
NAIでは、論文の英文校閲だけでなく、翻訳、カバーレター、レスポンスレター、投稿前の各種チェックなど、論文投稿に関するさまざまなサポートをご用意しています。
「英語だけを直してほしい」
「論文全体を投稿前に確認してほしい」
「英文は書けたけれど、投稿前に専門家の目でチェックしてほしい」
など、ご希望に合わせてご相談いただけます。
論文の内容を正確に伝えるために。
そして、研究者自身が本当に伝えたいことを、読み手に正しく届けるために。
投稿前の最後の仕上げとして、NAIの論文サポートをご活用ください。
